坐久さんの同人音楽万歳

主に同人音楽イベントで入手した音源について徒然なるままに語ります。稀に同人以外も語ります。的外れだったら許してね。

親指〆器 ~ 深層への旅

プログレッシブブラックメタルバンドによるカバー曲含む5曲入りミニアルバム

 

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久々の更新である。

アグレッシブさと知的さ、凶悪さと叙情性、動と静のサウンドを兼ね備えた長大な楽曲に文学的な歌詞を時に感情的なスクリームや穏やかなクリーンボイスを展開に応じて歌い上げる音楽性が魅力のプログレッシブブラックメタルバンドで、前作、「始祖は唄う」ではその拘りが存分に発揮され、7曲入りながらフルアルバムサイズ50分弱の収録時間となっており、非常に芸術性の高い作品に仕上がっていた。

今回は5曲入りのミニアルバム名目で、それも5曲中3曲はBlack Sabbathのカバー曲である。しかしながらオリジナルの2曲で26分以上あり、カバー曲もただアルバムに添えたというよりは作品として意図を持って選曲したか、或いは彼らの解釈で名盤の曲順に違った道を新たに作ったように思え(曲にサブタイトルが付いているのはプログレの作法でもあるがそういう意図もあるのかもしれない)、歴とした彼らの作品と言って何ら差支えの無いものに仕上がっている。

 

深層への旅

01 Embryo (Black Sabbath Cover)

02 深層へ

 I   心喪

 II  真相

 III 心層

 IV 深層へ

03 旅路の果てに

 I   旅立ち

 II  迷宮へ

 III 転落

 IV 旅路の果てに

04 Solitude (Black Sabbath Cover)

05 Into The Void (Black Sabbath Cover)

 

1曲目は原曲と異なりピアノによるアレンジになっており、テンポも落とされ不穏さよりも重々しい物悲しさが前面に押し出されている。曲の終わりに空間を包み込むようなピアノの逆再生音がここからタイトル通りの深層への旅に出ることを思わせる。

元ネタのアルバムでは名曲Children Of The Graveを始めとした3曲からカバーされている2曲に繋がるのだが、このアルバムでそれらに代わって収録されている2曲はいずれも正に彼ららしい大曲で、2曲どころか1曲でその3曲合計の長さを上回っている。今作ではオリジナル曲でもBlack Sabbathを意識したのか、ドゥームメタル然とした重いリフを主題とした曲作りになっている印象を受けた。そしてその合間に奏でられるリードギターの落ち着いた叙情性やキーボードの美しい旋律が曲にもう一つ二つの色どりを添えていて単調さを感じさせない作りになっている。また今作においても歌詞が非常に文学的である。

Tr.2は過去に絶望し全てを失って深い闇、深層に沈み行く終末と表層では変わらず四季が色とりどりに美しく移ろい巡る様を描く無常を感じさせる曲で、非常に重いリフに悲愴な高音のスクリームが乗る序盤、激しくアグレッシブな曲展開を経て再び重いリフに気怠さや虚無感を帯びながらメロディを歌うボーカルが乗る中盤、穏やかな曲想とボーカルで四季の情緒を歌う終盤とそれぞれに美味しさの詰まった壮大な仕上がりとなっている。

Tr.3は闇の中でなおも何かを求めて彷徨いながら様々な心情を移ろわせ、やはり全体の印象としては重さを効かせたリフが際立っている印象だが、情景に合わせて曲想を目まぐるしく変えるような楽曲という印象を受けた。特に後半も半ばのピアノの奏でる旋律は何とも美しい哀愁を感じさせ、聴き入らされるものがある。こちらも壮大な仕上がりだ。

Tr.4,5は再びBlack SabbathのカバーだがTr1と比較して忠実に再現されているような印象を受けた。Tr.4の歌詞にはオリジナル曲のテーマにも重なるようなものがあり、どこか切ない余韻を感じさせる。Tr.5は複雑な原曲をしっかりとしたカバーに仕上げており、高い演奏力を感じさせる。

また、ジャケットに描かれた四季それぞれのイラストで最後の冬だけ「人物」の様子が異なっているが、何かアルバムの内容との関りがあるのだろうか。

 

今作も前作と変わらず芸術性を追求した大曲志向で、非常に聴き応えのある作品だった。やはりそれぞれの場面転換でそれぞれの聴かせ所を持たせているのは大変素晴らしいと思う。今後の活躍にも大いに期待したい。